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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)1293号 判決 1985年6月25日

控訴人

共栄火災海上保険相互会社

右代表者

高木英行

控訴人

遠峰康男

右両名訴訟代理人

江口保夫

斉藤勘造

草川健

被控訴人

医療法人聖愛会

右代表者理事

方波見誠

右訴訟代理人

八木下巽

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

〔申立〕

(一)  控訴人ら

「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人共栄火災海上保険相互会社(以下「控訴会社」という。)に対し金一〇〇〇万円、控訴人遠峰康男に対し金二一九万五二三一円及び右各金員に対する昭和五三年二月三日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求める。

(二)  被控訴人

主文第一項同旨の判決を求める。

〔主張〕

次のとおり訂正し、控訴人らの当審における主張を付加するほか、原判決事実摘示中「第二 当事者の主張」の項記載のとおりである。

一  原判決の摘示の訂正<省略>

二  当審における控訴人らの主張

(一)  控訴人遠峰は、小田切秀子、同信太郎、同シン、内島好江(以下「訴外小田切ら」という。)から本件交通事故に基づく損害賠償請求訴訟を提起されたので、昭和四八年一月二三日被控訴人に対し訴訟告知をしたところ、被控訴人は同年三月三日右控訴人の側にではなく訴外小田切らの側に補助参加した。そして、右訴訟における唯一の争点は小田切弘一の死因となつた尿毒症が本件交通事故に基づくものか右事故と被控訴人側の医療過誤との競合に基づくものかの点にあり、これについて双方当事者及び補助参加人たる被控訴人による主張、立証が尽くされた結果、右訴訟の第一審判決では本件交通事故と医療過誤との競合(異時的共同不法行為)が認定され、控訴人遠峰が敗訴した。更に第二審判決でも右認定が支持され、右第一審判決は確定した。以上によれば、民事訴訟法七八条、七〇条により右判決の参加的効力は被控訴人に及ぶから、被控訴人は本件訴訟において医療過誤がなかつたことを主張することができないものというべきである。

(二)  仮に右主張が認められないとしても、本件は、右損害賠償訴訟における補助参加人と相手方当事者との間に後訴が予想され、右両者間についても右訴訟の判決の拘束力を認めないと一方だけが二重に敗訴するという窮地に立たされるおそれのある事案であり、しかも補助参加人たる被控訴人の訴訟活動が判決の基礎を形成し、その手続権も十分に保障されたものであるから、右訴訟の判決内容の拘束力は被控訴人に及ぶものと解すべきである。したがつて、被控訴人が本件訴訟において前訴判決の判断に反する主張をすることは許されない。

〔証拠〕<省略>

理由

一控訴人ら主張の日時場所で亡小田切弘一運転の車両と訴外渡辺猛運転の車両とが衝突し、亡弘一が控訴人ら主張の傷害を受け、事故当日の昭和四五年四月二八日から同年七月一日まで被控訴人経営の病院に入院して治療を受けたが、尿毒症により右七月一日に死亡したことは、当事者間に争いがない。

二控訴人らは、亡弘一の死亡は被控訴人の診療契約上の債務不履行又は被控訴人の被用者たる医師方波見誠の過失によるものである旨主張するので、この点について検討する。

(一)  まず、控訴人らは、訴外小田切らと控訴人遠峰との間の別件損害賠償訴訟において右控訴人が被控訴人に対し訴訟告知をし、被控訴人が訴外小田切らの側に補助参加した結果、右訴訟の判決の参加的効力ないしこれに準ずる効力により、被控訴人は本件訴訟において亡弘一に対する医療過誤がなかつたことを主張することはできない旨主張する。

しかしながら、訴訟告知がされた場合に生ずる判決の参加的効力は、判決の論理的前提となつた事実関係又は法律関係に対する判断について告知者と被告知者との間に認められるものであるところ、<証拠>によれば、右別件訴訟の判決においては被控訴人の被用者たる医師の診療上の過失が認定されているものの、そのような過失があつても右医師と交通事故発生について過失のあつた者とは異時的共同不法行為者として各自全損害について賠償義務を負うべきものとされているのであるから、結局右診療上の過失の有無に関する判断部分は傍論にすぎないものである(このように全部賠償義務が認められた場合には、判決中で賠償義務者間での分担割合等を確定する必要はないのであるから、訴訟告知自体実益のないものであつたことになるのみならず、被控訴人が右訴訟告知に応じて右訴訟に参加するとすれば相手方当事者たる訴外小田切らの側に補助参加するほかないが、後述のように判決の参加的効力は補助参加人と被参加人との間に生ずるものと解されるから、右のような訴訟告知自体が矛盾をはらむものである。)。したがつて、右訴訟告知に基づき、医療過誤の有無に関する別件訴訟の判決の参加的効力を認めることはできない。

また、別件訴訟においては被控訴人が訴訟告知をした控訴人遠峰の側ではなく相手方当事者たる訴外小田切らの側に補助参加したので、訴訟告知による参加的効力とは別個に右補助参加による参加的効力が本件訴訟に影響を及ぼすかどうかも検討する必要があるが、これについても、訴訟告知による参加的効力について前述したのと同様の理由により右医療過誤の存否の判断についての参加的効力を否定すべきものと解されるのみならず、一般に参加的効力は補助参加人と被参加人との間における敗訴の責任の共同負担の問題と解されるから、この点からいつても右判断についての参加的効力を否定せざるを得ない。

この点について更に控訴人らは、補助参加人と相手方当事者との間に後訴が予想され、右両者間についても判決の拘束力を認めないと二重敗訴の事態を生ずる危険がある場合には、補助参加人がその訴訟活動を十分に行いえたこと等を要件として前訴の判決の判断内容につき後訴への拘束力を認めるべきだと主張する。しかし、訴訟上の信義則に基づく一般的な制約とは別に、特に補助参加人と相手方当事者との間についてそのような拘束力を認めるべき理論的根拠は明らかとはいい難いのみならず、前記のような判決の傍論的部分の判示について右のような拘束力を認めることが妥当でないことは明らかであるから、右主張も採用することができない。

(二)  <証拠>によれば、亡弘一の死因となつた尿毒症が本件交通事故による受傷の結果発生したものである可能性は低く、むしろ右尿毒症は慢性腎炎を基盤として生じた急性腎不全に基づくものである可能性が高いものと認められ、この認定を覆するに足りる証拠はない。

<証拠>によれば、亡弘一が被控訴人経営の病院に入院した当初は尿量も正常で潜血も僅かであつたが、その後定期的な尿検査が行われたことを示す記録は残されていないこと、殊に昭和四五年六月八日に全身浮腫が認められ同月一八日の腎機能検査の結果腎不全が明らかになつた(右腎不全が使用されたキリシトール注射液によつて惹起された可能性はあるが、断定できない。)にもかかわらず、その後においても定期的検査による全身管理やこれに対する対応処置がとられた形跡がないこと、人工腎臓、腹膜透析による療法は、当時一般病院では実施困難であり、設備の数も少なく、急性腎不全の場合でも人工腎臓の利用は困難であつたこと、亡弘一の診療にあたつていた医師方波見誠(被控訴人代表者)は、水戸市の国立病院に人工透析の設備があることは知つていたが、同市まで四、五〇キロメートルの距離があり道路状況も不良なので、弘一の状態からみて同人を右病院に運ぶことは好ましくないと考えたこと、当時においては一般に急性腎不全による尿毒症の予後は不良であり、専門施設で人工腎臓、腹膜透析等による治療を受けた場合でも救命率は約五〇パーセント又はそれ以下であつたことが認められる。以上の事実関係からすると、被控訴人経営の病院において亡弘一の腎不全に対してとられた措置は万全のものでなかつた疑いが極めて濃厚であるが、それが弘一の死亡を招いたと断定することは困難であるといわなければならず、他に右医療の不適切と弘一の死亡との因果関係を肯認するに足りる証拠はない。

三よつて、その余の点について判断するまでもなく、控訴人らの本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項を適用して主文のとおり判決する。

(鈴木重信 加茂紀久男 梶村太市)

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